脂身(トロ)の有効活用から生まれた料理
江戸時代、まぐろの赤身は醤油漬け(ヅケ)にして保存や寿司などに使われていましたが、脂の多い部分(トロ)は保存に適さず、当初は捨てられることも多いものでした。しかし、この脂身を美味しく食べる工夫として、ねぎと一緒に火を通して煮込んだのが「ねぎま鍋」の始まりです。
割り下で煮込むシンプルな調理法
醤油、酒、出汁を合わせた割り下に、ぶつ切りにしたねぎとまぐろを加え、煮込むことで、ねぎとまぐろ双方の旨みと香りが融合した美味なる鍋が完成します。脂がのったまぐろと香ばしいねぎは、互いを引き立て合う絶妙な組み合わせです。
江戸の食文化と鍋の進化
江戸中期以降、七輪の登場により客間でも火が使えるようになり、「小鍋立て」というスタイルが流行しました。ねぎま鍋はまさにこの流れに乗ったもので、調理と食事が一体となった新たな食文化を形づくりました。
食習の機会や季節
江戸時代には保存が難しかった脂身を活かした料理として、安価で庶民にも手が届きやすい鍋料理として親しまれました。しかし、現代では脂身(トロ)は高級部位とされており、当時のような本来の「ねぎま鍋」を作るのはやや難しくなっています。
現在では出汁を効かせたさっぱり風味のねぎま鍋も登場しており、家庭の味としてアレンジされています。
飲食方法
調理の手順
- まぐろは2cmほどのぶつ切りにします。
- ねぎも同様にぶつ切りにします。
- 土鍋に醤油と酒を入れ、冷たいうちにねぎを加え火にかけます。
- 煮立ったらまぐろを加え、1〜2分さっと煮ます(煮すぎると硬くなるため注意)。
おすすめの食材と工夫
春菊、えのき茸、豆腐などの季節の野菜を加えるとさらに風味豊かになります。まぐろ以外の具材に火を通した後、まぐろは食べる直前に少しずつ加えると、柔らかな食感が楽しめます。
さしみ用まぐろであれば軽く温める程度でも美味しく、加熱用のまぐろはしっかり火を通すのがおすすめです。また、筋や血合いを使うとゼラチン質が加わり、とろりとした旨みが増します。
地域性と食材
主な伝承地域
- 東京都葛飾区およびその周辺地域
主な使用食材
- まぐろ(脂身・赤身)
- ねぎ
- きのこ(えのき茸など)
- 春菊、豆腐など季節の具材
まとめ
ねぎま鍋は、江戸時代の知恵と工夫から生まれた鍋料理で、まぐろの脂身をねぎとともに美味しくいただく一品です。家庭でも気軽に作ることができ、季節の野菜や出汁を工夫することで、さまざまなアレンジも可能です。江戸庶民の暮らしと食文化を今に伝える、日本の伝統的な味わいをぜひご賞味ください。