日本近代文学館は、東京都目黒区の駒場公園内に位置する文学館です。この文学館は、近代から現代にかけての日本文学に関する貴重な資料を保存・展示し、一般の読書家から専門の研究者まで幅広い層に利用されています。
第二次世界大戦後、日本は敗戦から立ち直り、経済成長へ向かって急速に変化していました。しかし、急激な社会変動の中で、日本の近代文学に関する貴重な資料が散逸しつつあることが問題視されていました。この状況を憂慮した作家の高見順や伊藤整、そして研究者の小田切進や稲垣達郎らが中心となり、1962年5月に設立準備会を結成しました。
設立準備会の活動は大きな反響を呼び、15,000人もの個人や団体から資料の寄贈や建設資金の寄付が集まりました。これを受けて、1963年4月に財団法人日本近代文学館が正式に発足し、1967年4月13日に駒場公園内の旧前田利為侯爵邸敷地内で文学館が開館しました。
1995年、日本近代文学館の呼びかけにより、日本各地の文学館や記念館が相互に協力し合うための全国文学館協議会が設立されました。この協議会は、文学資料の保存や展示に関する情報共有や協力を目的としています。
資料の増加に伴い、2007年9月15日に千葉県成田市に日本近代文学館の分館が開館しました。この分館の建設資金もすべて募金によるものであり、文学館の活動への支援が広く浸透していることが窺えます。
2011年6月1日、日本近代文学館は公益財団法人の認定を受けました。これにより、より広範な公共性を持つ法人として、日本の近代文学に関する資料の収集、保存、公開、そして文化普及のための活動を一層推進しています。
2016年、志賀直哉に関する資料11,886点が志賀家から寄贈されました。これにより、当館の資料はさらに充実し、志賀直哉研究において貴重な資源を提供しています。
2017年には、新潮社会長だった佐藤俊夫が保管していた太宰治、夏目漱石、谷崎潤一郎、島崎藤村の生原稿が寄贈されました。これらの資料は、日本近代文学の研究において極めて重要なものであり、多くの研究者や文学愛好者にとって貴重な存在です。
日本近代文学館は現在、約120万点に及ぶ資料を所蔵しています。その中には、数々の名作の原稿や書簡、関連する書籍や雑誌が含まれています。これらの資料は、閲覧室や展示室で公開されるほか、書籍や電子媒体を通じて広く一般に提供されています。また、各種講座や講演会も開催しており、文学や文化に関心のある人々に対する教育・普及活動も積極的に行っています。
日本近代文学館の歴代理事長は以下の通りです:
また、以下の方々が名誉顧問や名誉館長を務めてきました:
日本近代文学館には、芥川龍之介に関する2,876点の資料が収蔵されています。代表作「歯車」をはじめ、彼の手による「河童図」や「化物帖」などの書画、家族への書簡、斎藤茂吉からの書簡、そして夏目漱石の書軸や遺愛品などが含まれています。2008年には耿子氏から寄贈された資料も加わり、遺書や夏目漱石との書簡など226点が追加されました。
高見順に関する資料は49,081点にのぼり、代表作「いやな感じ」などの原稿や草稿、書簡、遺品、そして全旧蔵書が含まれています。1998年には、さらに400点を超える原稿や書簡が寄贈され、これにより5,000通近い諸家書簡も含まれることとなりました。
森鴎外のコレクションは2,147点を数え、彼の原稿や、ドイツ留学中に家族から送られた書簡、初版本などが所蔵されています。
川端康成のコレクションには、彼の代表作「雪国」の原稿や創作覚え書き、「山の音」の原稿、横光利一の「悲しみの代価」の原稿、さらには旧蔵書など2,592点の資料が含まれています。
島崎藤村に関する279点の資料が収蔵されており、「夜明け前」の創作ノートや、夫人宛の書簡、英文洋書などが含まれています。
樋口一葉に関する396点の資料が保管されています。代表作「たけくらべ」「にごりえ」の草稿や日記、遺愛品のほか、半井桃水や斎藤緑雨らとの書簡も含まれています。
石川啄木および土岐善麿に関する資料は合計1,163点を数えます。啄木に関する資料には、「一握の砂以後」や「雲は天才である」の原稿、書簡などが含まれ、善麿に関しては著書や書、さらには齋藤茂吉や新村出ら112名の書簡が所蔵されています。
太宰治のコレクションには、「斜陽」や「人間失格」などの原稿、初版本、外国語訳書、同人誌、さらには草稿やノート、教科書、手帳などが含まれています。2014年には太宰治の資料が追加寄贈され、彼の最晩年に記されたメモや、創元社版全集などが所蔵されています。
志賀直哉に関する資料は11,886点に上り、彼の原稿や書簡、絵画、写真、そして直哉宛の書簡などが含まれます。1994年および2005年に直吉氏から寄託された資料をはじめ、小林多喜二、中原中也、萩原朔太郎らの署名入り献呈本なども所蔵されています。これらの資料は「志賀直哉コレクション」として一括定義されており、総合的な研究が推進されています。
千葉県成田市にある日本近代文学館の分館は、2007年9月に開館しました。この分館は、成田空港からほど近い立地にあり、文学資料の保存・展示のための施設として、また地域文化の発信拠点として機能しています。
所在地: 千葉県成田市駒井野字新堀1705-3
日本近代文学館は、今後も日本の近代文学に関する資料の保存・研究・普及を続け、文化の継承と発展に寄与していきます。これからも多くの人々に愛される施設であり続けるために、さまざまな活動を展開していく予定です。