福神漬の基本的な特徴
福神漬は、ダイコン、ナス、ナタマメ、レンコン、キュウリ、シソの実、シイタケまたは白ゴマなど、7種類の野菜を下漬けし、塩抜きして細かく刻み、醤油・砂糖・みりんで作った調味液に漬けたものです。地域によっては「ふくしんづけ」とも呼ばれています。
福神漬の起源と由来
起源に関する複数の説
福神漬の起源には複数の説が存在します。
上野「山田屋」説
明治10年(1877年)頃または明治18年(1885年)、上野の漬物店「山田屋」(現在の酒悦)の店主・第15代野田清右衛門が、ダイコン、ナス、カブ、ナタマメなどをみりん醤油で煮た漬物を開発し、茶店で販売したところ好評を博しました。命名者は流行作家の梅亭金鵞とされ、「ご飯のお供に最適で七福神のように福をもたらす」との意味を込めて名付けられたといわれています。
了翁道覚による漬物説
寛文12年(1672年)、出羽国出身の僧・了翁道覚が、上野寛永寺に設立した勧学寮で提供された野菜漬物が、輪王寺宮に称賛され「福神漬」と命名されたという説もあります。
その他の由来
明治19年(1886年)、上野公園の品評会に出品された漬物に名前がなく、七種類の材料を使用していたため七福神にちなんで「福神漬」と命名されたという記録も残っています。
軍事との関わり
福神漬は日清戦争・日露戦争において、日本軍の携帯食として使用され、その知名度が広まりました。缶詰にされた福神漬は、野外演習で湯や水を加えてご飯に混ぜて食べられ、兵士たちの間で重宝されたといいます。
福神漬の製法
工業的製法とJAS規格
日本農林規格(JAS)では、福神漬に使用される野菜(ダイコン、ナス、レンコン、ショウガなど)の中から、一定数以上を使用することが定められています。また、製品重量に対する固形物の割合やダイコンの使用割合にも細かな基準があります。
製造工程
使用される野菜は塩漬けされたものを使い、塩抜き・細断・圧搾を経て調味液に漬けられます。調味液は加熱後に冷却し、漬け込みが行われ、製品によっては加熱殺菌されることもあります。
味付けの変化
初期は甘口の味付けが主流であり、軍の缶詰などで広まったのもこの味です。昭和初期に登場した商品「新進漬」は甘じょっぱい味でしたが、1990年代以降は健康志向により減塩が進んでいます。
家庭での作り方
昭和17年(1942年)の論文には、家庭での福神漬の作り方がいくつか紹介されています。例えば、干したダイコンを醤油、砂糖、塩などで煮る簡易なレシピがあり、保存性にも優れていたと記録されています。
カレーとの関係
日本のカレーと福神漬
現在、福神漬はカレーライスの定番の付け合わせとして広く親しまれています。明治時代初期、日本郵船の欧州航路客船の一等船客に提供されたカレーライスに添えられたことが、広まりのきっかけとされています。二・三等客にはたくあんが提供されていました。
広まりの背景
当初はカレーにはチャツネが添えられていましたが、代用として使われた福神漬が好評となり、日本中に広まりました。発酵型漬物よりも保存性が高い非発酵型の福神漬が、軍用食としても重宝され、全国的な知名度を得ました。
戦後の変化と普及
明治の終わり頃から庶民の間で洋食が浸透し始め、ご飯に合う漬物として福神漬が選ばれるようになりました。戦後は、チャツネの赤色を真似て赤く着色された商品も登場し、現在ではさまざまな種類の福神漬が販売されています。