佃島と佃煮の誕生
江戸幕府の創設者・徳川家康は、摂津国(現在の大阪市)佃村から漁師たちを呼び寄せ、 隅田川河口の干潟を埋め立てて彼らを住まわせたことで「佃島」と名付けられました。
彼らは天候不良時や出漁時の保存食として、小魚や貝を塩や醤油で煮詰めた常備菜を作っており、 それが佃煮の原型となりました。保存性が高く、江戸庶民に人気を博し、 武士の土産品として全国に広まったとされています。
佃煮の食べ方と利用
日常に根付く佃煮文化
佃煮は一年を通して食べられる常備菜であり、白飯との相性が抜群です。 特にお茶漬けやおにぎりの具材として親しまれています。
旬の素材
使用される食材には旬があります。例えば、白魚は春、アサリ・ハマグリ・シジミも春が旬です。 濃い味付けのため主菜になることは少ないですが、料理の引き締め役として活躍します。
調理方法の基本
佃煮は、使用する食材と調味料(醤油、みりん、砂糖、水飴など)を汁気がなくなるまで煮詰めて 作ります。例えば、のりの佃煮を作る際には、水でふやかし、固まりにならないように注意することが 美味しく仕上げるコツです。
佃煮の歴史と発展
諸説ある起源
一般的な説では、佃島の漁民が小魚を保存食として煮詰めていたものが「佃煮」の始まりとされています。
しかし、以下のような異説も存在します:
- 1858年に青柳才助が創始したという説
- 1862年に浅草瓦町の鮒屋佐吉が、素材ごとの煮付けと醤油の使用を工夫し佃煮を広めたという説
- 日本橋の伊勢屋太兵衛による創始説
- 住吉神社への供え物としての雑魚煮(塩煮・醤油煮)から始まったとする神事起源説
佃煮の日
全国調理食品工業協同組合では、佃島に住吉神社が祀られた日(1646年6月29日)と、 数字の語呂合わせ(2=ツー、9=く)にちなんで6月29日を「佃煮の日」と定めています。
近代における普及
明治時代には西南戦争や日清戦争の際、佃煮が軍用食として大量に生産されました。 戦後、兵士たちが家庭でも佃煮を食べるようになり、全国的に日常食として定着しました。
佃煮の種類
使用素材による分類
佃煮は大きく分けて以下の3種類に分類されます。
- 水産佃煮:昆布、わかさぎ、あさり、えびなど
- 農産佃煮:ふき、葉唐辛子、豆など
- その他の佃煮:いなご、くるみなど
地域独自の佃煮
海から離れた長野県伊那谷や群馬県では、イナゴやざざむし、蜂の子などの昆虫が佃煮として食されてきました。
現代の佃煮事情
現在では牛肉の佃煮(しぐれ煮)や、複数の原料を組み合わせた混合佃煮など、 多様な形状・味付けの製品が販売されています。代表的な昆布佃煮だけでも 「塩昆布」「しそ昆布」「角切昆布」など多種に分かれます。
佃煮の代表的な派生品
- あめ煮:水飴を加えて照りを出したもの
- しぐれ煮:生姜入りで甘辛く煮た佃煮
- でんぶ:魚肉や鶏肉をほぐして甘く炒ったふりかけ風の佃煮
佃煮に使われる主な材料
魚介類
穴子、白魚、ゴリ、ちりめんじゃこ、イカナゴ、ウナギ、コイ、フナ、モロコ、ヤツメウナギ、カツオ、マグロ、エビ、オキアミ、ハゼ、アミ
貝類
アサリ、ハマグリ、シジミ、赤貝、カキ
海藻類
昆布、海苔、ヒジキ
植物・農産物
ふき、山椒、しいたけ、まつたけ、つくし、唐辛子
昆虫類
イナゴ、蜂の子、ざざむし、カイコ(さなぎ)
その他の材料
牛肉、湯葉、麩、くるみ