東京都新宿区歌舞伎町に鎮座する稲荷鬼王神社は、歴史と信仰の深い場所として知られています。この神社は、JR新大久保駅から南東に約400メートルの位置にあり、「鬼の福授けの社」として多くの信仰を集めています。特に、皮膚病やその他の病気平癒にご利益があるとされ、「撫で守り」の授与で有名です。また、境内にある三島神社には恵比寿神が祀られており、新宿山ノ手七福神の一つとしても知られています。
稲荷鬼王神社の起源は天保2年(1831年)に遡ります。当時、大久保村の氏神であった稲荷神と、紀州熊野から勧請されていた鬼王権現が合祀され、現在の稲荷鬼王神社が誕生しました。熊野からの鬼王権現は、現在では日本唯一の「鬼王」の名を持つ神社として貴重な存在となっています。
この神社は、祭神として稲荷神の宇迦之御魂神、鬼王権現の月夜見命、大物主命、天手力男命を祀っており、大久保村が古くから祀っていた神々(火産霊神など)も、明治時代に合祀されています。また、平将門の幼名が「外都鬼王(げづおにおう)」や「鬼王丸」であったことから、この神社の名前の由来ともされています。
稲荷鬼王神社の大祭で担がれる宮御輿は、鬼面が彫られた珍しいもので、地元の人々にとって特別な意味を持っています。神社の名前から「鬼」を祭神としていると誤解されることがありますが、実際にはそうではありません。
稲荷鬼王神社の境内にある三島神社には事代主命が祀られており、新宿山ノ手七福神の一つとして広く知られています。毎年10月19日と20日に行われる「恵比寿祭」では、境内にべったら漬を売る露天が並び、多くの参拝者で賑わいます。この祭りでべったら漬を購入すると金運が付くとされ、「べったら祭」とも呼ばれています。
境内社として再興された浅間神社には、木花開夜昆賣命が祀られています。この神社の境内には、全国から取り寄せた石で造られた富士塚があり、その頂上には浅間神社が鎮座しています。この富士塚は、「西大久保の厄除け富士」として、地域の人々から大切にされています。
稲荷鬼王神社には、江戸時代に造立された石造の水鉢があり、新宿区指定有形文化財(彫刻)として指定されています。この水鉢は、しゃがんだ鬼の頭に大きな手水鉢を乗せたユニークな姿をしており、その背後には興味深い伝承があります。かつて、この水鉢から水を浴びるような音が毎晩聞こえるため、持ち主が切りつけたところ、病気や災難に見舞われ、最終的に神社に奉納されたという話です。
稲荷鬼王神社では、湿疹や腫物など、さまざまな病気の平癒にご利益があるとされる「撫で守り」が授与されています。この守りは、病気平癒を祈願するもので、「豆腐断ち」との組み合わせが伝統的です。病が治るまでの間、本人や代理人が豆腐を食べない「豆腐断ち」を行い、授与された「撫で守り」で患部をなでることで、病気が平癒すると信じられています。
この神社では、節分の豆まきにおいて「福は内、鬼は内」と唱えます。これは、鬼を春の神とみなす独自の風習に基づいており、他の神社とは一線を画しています。
新宿の名物おじさんとして知られる新宿タイガー(本名:不明)は、新聞配達員として働きながら、鬼王神社に祀られている鬼王のお面に影響を受けて「タイガー」になることを決意しました。彼の存在は、稲荷鬼王神社とともに新宿の文化の一部となっています。
稲荷鬼王神社の氏子地域は、新宿区歌舞伎町二丁目(全域)をはじめ、新宿区大久保一丁目1~2、8、11~13、17、新宿区新宿六丁目27(一部)、28~29、七丁目26・27(各一部)に及びます。
稲荷鬼王神社は、歌舞伎町を舞台にした作品「歌舞伎町セブン」(誉田哲也)やアニメ「真夜中のオカルト公務員」(たもつ葉子)の4話などにも登場しています。
このように、稲荷鬼王神社は新宿の歴史と文化に深く根ざした場所であり、多くの人々に信仰されています。