旧多摩聖蹟記念館は、東京都多摩市連光寺にある歴史的建造物および展示施設で、東京都立桜ヶ丘公園内に所在します。この記念館は、明治天皇の当地への行幸を記念して1930年(昭和5年)に建てられ、昭和後期には改修と改称が行われました。現在は、多摩市指定文化財および東京都景観上重要な歴史的建造物として指定されています。
旧多摩聖蹟記念館は、明治天皇の行幸を記念して1930年(昭和5年)11月に開館しました。この建設は、元宮内大臣の田中光顕が中心となり、地域の人々の土地の寄付や工事の協力によって進められました。「聖蹟(聖跡)」とは、天皇が行幸した場所を指し、日本各地に同様の記念碑や施設があります。
記念館開設に先立つ1928年(昭和3年)、明治天皇の御製および昭憲皇太后の御歌を刻んだ碑が建てられました。これに続き、1929年(昭和4年)には東京浅草橋場にあった対鴎荘の建物を移築し、付属庭園が設けられました。この対鴎荘はもともと三条実美の別邸で、1873年(明治6年)に明治天皇が三条を見舞った際に使用された場所です。対鴎荘は現在は現存していません。
明治天皇は1884年(明治17年)に臨幸し、当地で狩りや漁を楽しみました。その際、谷間で聞いた鶯の声に心を動かされ、「春深き山の林にきこゆなり今日を待ちけむ鶯の声」と詠んでいます。このほか、皇后(昭憲皇太后)も詩を詠み、それらを刻んだ3つの碑が設置されています。
記念館は1986年(昭和61年)に多摩市指定文化財および東京都景観上重要な歴史的建造物に指定され、同年に財団法人多摩聖蹟記念会から多摩市に寄贈されました。その後、1987年(昭和62年)には改修を経てリニューアルオープンしています。
本館は近代式鉄筋コンクリート造りで、設計は関根要太郎と蔵田周忠によるものです。建物は、オーストリアのウィーン分離派やドイツのユーゲント・シュティールと呼ばれる建築デザインの影響を受けた円形の大殿堂で、地域の近代建築の中でも特に貴重な存在です。施工は大倉土木株式会社が行い、延べ工事人員は5,870人にのぼりました。2022年にはDOCOMOMO JAPANによって「日本におけるモダン・ムーブメントの建築」として選定されています。
館内には、渡辺長男作の『明治天皇騎馬等身像』(明治14年2月、明治天皇30歳時の姿)や、田中光顕が収集した坂本龍馬の肖像など、幕末から明治期にかけて活躍した人物の書画が展示されています。また、多摩の植物に関する写真も展示されており、館内は有料でギャラリーとして利用することも可能です。
記念館には「明治維新五賢堂」が併設されており、1968年(昭和43年)に明治維新100周年を記念して建設されました。この施設内には、明治天皇立像のほか、三条実美、岩倉具視、木戸孝允、大久保利通、西郷隆盛の胸像が安置されています。これらの作品は小金丸幾久の制作、北村西望の監修によるものです。
アクセス方法: 京王線・聖蹟桜ヶ丘駅 または 京王相模原線・小田急多摩線 永山駅から京王バス桜06・07系統「記念館前」下車、徒歩5分
旧多摩聖蹟記念館は、1970年代に「仮面ライダー」シリーズをはじめとする特撮番組のロケ地としても利用されました。そのため、記念館は文化的にも多摩市のシンボルの一つとして広く知られています。