長命寺は、東京都墨田区向島に位置する天台宗の寺院です。この寺院は、山号を「宝寿山(寶樹山)」、院号を「遍照院」とし、本尊として阿弥陀如来を祀っています。また、隅田川七福神のうち弁財天を安置していることでも知られています。さらに、「長命寺桜もち」という伝統的な和菓子の発祥地として、多くの人々に親しまれています。
長命寺の創建については、平安時代の円仁(えんにん)による開山説や、慶長年間(1596年〜1615年)に創建されたという説があり、詳細は不詳です。元々は「宝樹山常泉寺」と号していましたが、江戸幕府第3代将軍徳川家光の命により、現在の名称「長命寺」に改められました。
家光が鷹狩の途中で軽い病にかかり、この地で休息をとった際、僧孝海が境内の井戸「般若水」を用いて家光を治療しました。家光はこれを「長命水」と名付け、以後、家康の画像を祀り、毎年供養料を寺に与えるようになりました。このように、長命寺は徳川家光との深い縁を持つ寺院です。
長命寺には数多くの文化財が残されています。特に、墨田区指定の有形文化財や民俗文化財が寺内に保存されています。
代表的な有形文化財としては、松尾芭蕉の句碑「いざさらば」や、勝川春英翁の略伝碑があります。これらは、歴史的な価値が高く、多くの参拝者が訪れる際に足を止める場所となっています。
また、庚申塔(1659年建立)や、橘守部・橘冬照の墓も区指定文化財として保存されています。これらの史跡は、長命寺の歴史を物語る重要な要素です。
長命寺の境内には、かつて「月香楼」という桜もち屋がありました。1888年(明治21年)の夏、正岡子規がこの月香楼の二階に仮寓していたことがあります。子規はここで3か月間滞在し、その間に『七草集』を執筆しました。また、その中に含まれる能作品には、月香楼の一人娘であった山本陸(やまもとろく)をモデルにした登場人物が描かれています。このエピソードは、子規と陸の関係を巡る興味深い逸話として伝わっています。
長命寺のある向島地区は、江戸時代に徳川吉宗が桜を植えたことから桜の名所として知られています。この「墨堤の桜」は、毎年春になると多くの花見客で賑わいます。さらに、向島は「長命寺桜もち」や「言問団子」といった和菓子の名所としても有名です。これらの和菓子は、関東風の桜もちや団子として広く知られており、長命寺の周辺で購入することができます。
「言問団子」は、言問橋の名称の由来ともされる逸話があります。言問橋と隅田川の景観と共に、この団子は向島の伝統を感じさせる名物となっています。
長命寺は、東京都墨田区向島五丁目4番4号に位置しています。隅田川沿いのこの地域は、桜の季節や隅田川花火大会の時期には多くの人々が訪れる観光スポットでもあります。
長命寺は、その歴史的背景や徳川家との深い繋がり、文化財や地域の名物和菓子に至るまで、非常に魅力的な寺院です。向島を訪れる際には、ぜひこの歴史ある寺院を訪れて、その豊かな文化と歴史を感じてみてください。