神谷バーは、東京都台東区浅草1丁目にある、日本最初のバーで、神谷商事株式会社が運営しています。特に「電気ブラン」というアルコール飲料で有名で、浅草を訪れる多くの文豪たちにも愛されました。木下杢太郎は電気ブランより薄荷酒を好んだとされています。
神谷バーの歴史は1880年(明治13年)に始まります。神谷傳兵衛が東京府東京市浅草区浅草花川戸町(現在の東京都台東区浅草)に「みかはや銘酒店」を開業し、当初は濁り酒を販売していました。その後、以下のような重要な出来事が続きました。
神谷バーが入居する建物は、1921年に竣工された鉄筋コンクリート造の「神谷ビル」です。このビルは2011年に国の登録有形文化財に登録され、浅草で最古の鉄筋コンクリート造の建造物として知られています。2013年2月より「平成の大修繕」と称して耐震工事が行われました。
電気ブラン(でんきブラン)は、神谷バーの創業者である神谷傳兵衛が作った、ブランデーが混合されたアルコール飲料です。ブランデーベースのカクテルで、明治時代に誕生しました。当時、電気という言葉が最新のものを象徴する流行語として使用されていたことから、「電気ブラン」という名称が生まれました。発売当初は「電氣ブランデー」という名称でしたが、その後、「電気ブラン」に変更されました。
電気ブランは、当初アルコール分が45%と高く、口の中がしびれる感覚から「電気」の名が付けられたと言われていますが、実際の由来は「電気」という言葉がモダンで新鮮に響いたからです。現在、電気ブランはブランデー、ジン、ワイン、キュラソー、薬草が配合されており、材料の詳細や配合割合は社外秘となっています。
飲み方としては、基本的に冷やしてストレートで飲むのが一般的で、神谷バーでは口直しの氷水と一緒に提供されます。また、生ビールをチェイサーとして交互に飲むのが勧められており、黒ビールと合わせる場合もあります。
電気ブランには、アルコール度数に応じて「電気ブラン(30%)」と「電気ブランオールド(40%)」の2種類があり、神谷バーのメニューではそれぞれ「デンキブラン」と「電氣ブラン」と表記されています。現在もオエノンホールディングス傘下の合同酒精株式会社が醸造・販売を行っており、普通に購入可能です。また、2010年代のハイボールブームの影響を受けて、東京都内の飲食店や居酒屋で電気ブランのハイボールが提供されることも増えています。
作家の太宰治は作品『人間失格』で、「酔いの早く発するのは、電気ブランの右に出るものはないと保証し…」と記述しています。また、あがた森魚のアルバム『乙女の儚夢』(1972年)には、神谷バーと電気ブランを題材にした「電気ブラン」という曲があります。さらに、森見登美彦の小説『夜は短し歩けよ乙女』や『有頂天家族』には、電気ブランを模倣した「偽電気ブラン」が登場します。これに関連して、全国展開しているショットバー「bar moonwalk」では、これらの作品とコラボレーションしたカクテルが販売されています。
神谷バーへのアクセスは非常に便利で、東武スカイツリーライン、東京メトロ銀座線、都営浅草線の浅草駅から徒歩1〜2分です。