名主の滝公園は、東京都北区岸町一丁目に位置する区立公園で、その歴史は江戸時代にまで遡ります。王子村の名主であった畑野孫八が、自身の屋敷内に滝を開き、茶を栽培して避暑の場として一般に開放したのが公園の始まりです。この「名主」という名称は、彼の役職に由来しています。
明治時代の中期には、この地は貿易商である垣内徳三郎の所有となり、彼の手により大きく整備されました。徳三郎は栃木の塩原の風景を模して庭石を配置し、ヤマモミジなどの樹木を植栽して、渓流を作り出しました。この庭園は一般にも公開され、多くの人々に親しまれました。
1938年(昭和13年)には、株式会社精養軒がこの地を買収し、食堂やプール(名主水泳場)を営業していました。しかし、戦災によってこれらの施設は焼失し、公園は一時荒廃してしまいました。その後、東京都が土地を買収し、橋や東屋などの修復を行い、1960年(昭和35年)に有料公園として再開園しました。1975年(昭和50年)には北区に移管され、現在の形となりました。
名主の滝公園は、回遊式の庭園として設計されており、園内には4つの滝が復元されています。これらの滝は、男滝(おだき)、女滝(めだき)、独鈷の滝(どっこのたき)、湧玉の滝(ゆうぎょくのたき)と呼ばれ、地下水をポンプで汲み上げて水を流しています。滝から流れ出る水は小川となり、園内を巡って大小の池に注いでいます。
また、かつては園内で人工的に飼育されたヘイケボタルが放流され、その後自然に自生していることが確認されていました。夏にはホタルの観察会も行われ、幻想的な風景が楽しめましたが、残念ながら2011年(平成23年)以降は中止されています。
園内には、茶室や集会室などがある「名主の滝老人いこいの家」が設置されており、訪れる人々がゆったりと過ごせる場所となっています。入場料は無料で、開園時間は通常9:00から17:00までですが、夏季(7月15日から9月15日)の間は9:00から18:00まで延長されます。
名主の滝公園には、かつて「名主水泳場」という25メートルプールが存在していました。このプールは大日本水上競技連盟(現在の日本水泳連盟)公認で、1941年9月には『東日本記録会』という公式大会が開催され、ベルリンオリンピック日本代表選手である児島泰彦をはじめとする当時のトップクラスの選手たちが競泳を行いました。
また、現在では北区によって撮影ロケ地としても紹介されており、映画「黄泉がえり」の主題歌「月のしずく」のミュージック・ビデオが、女優・歌手の柴咲コウが「RUI」名義でリリースした際に、この公園で撮影されました。
名主の滝公園へのアクセスは、JR京浜東北線または東京メトロ南北線の王子駅から徒歩約10分、または都電荒川線の王子駅前停留場から徒歩約10分です。ただし、駐車場は設けられていないため、公共交通機関を利用しての訪問が推奨されます。