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多摩川

(たまがわ)

多摩川は、山梨県、東京都、神奈川県を流れ、東京湾へと注ぐ一級河川です。この川は、下流部分で東京都と神奈川県の都県境を形成し、全長138km、流域面積は約1,240km²に及びます。多摩川は地域の自然環境と文化に深く関わり、その歴史的・地理的な背景からさまざまな名称の由来が伝えられています。

名称の由来

歴史的な呼称と変遷

多摩川の名称の由来には諸説ありますが、はっきりとは分かっていません。古くは『万葉集』の東歌に「多麻河」として登場しており、835年に発行された朝廷の官符では「武蔵国石瀬河」と呼ばれていました。江戸時代には、同音の「玉川」という字が多く使用され、現代でも玉川上水や二子玉川駅などの施設名や地名にその名残を残しています。

「丹波川」からの転訛説

最も有力とされる説は、山梨県丹波山地域の「丹波川(たばがわ)」が転じて「たまがわ」となったというものです。「タバ」とはアルタイ語族の言葉で「峠」を指し、多摩川は丹波山峠から流れ出ることからその名が付いたとされています。

霊力を持つ川としての説

「タマ」とは「霊魂」を意味し、多摩川は「霊力をもつ川」「神聖な川」として認識されてきました。特に武蔵国の総社である大國魂神社の近くを流れ、禊のための聖水を提供していたことがこの説の背景にあります。

美しい川としての説

「タマ」は「玉石」「美しいもの」を意味し、多摩川の流れが「玉のように美しい」ことから「玉川」と名付けられたとする説もあります。

田間に由来する説

「タマ」は「田間」、つまり「水田が広がる場所」を指す言葉であり、「多摩郡」の名前が先にあり、そこを流れる川として「多摩川」と呼ばれるようになったとする説も存在します。

地理的特徴

源流と上流域

多摩川の源流は山梨県と埼玉県の県境に位置する笠取山(標高1953m)の南斜面下「水干」であり、ここから一之瀬川が始まります。川は南に向かい、柳沢川と合流して丹波川となり、さらに奥多摩湖(小河内ダムのダム湖)に注ぎます。多摩川と呼ばれるのは、この奥多摩湖から流れ出た小河内ダムからの下流部分からです。

上流の景観と名水百選

東京都青梅市までは山中を東へと流れ、この区間は秩父多摩甲斐国立公園に含まれています。青梅線御嶽駅周辺は1985年に御岳渓流として名水百選の一つに選ばれており、両岸には約4kmの遊歩道が整備されています。また、東京都西多摩郡奥多摩町白丸には白丸ダムが存在します。

中流域

青梅市から下流へ進むと、多摩川は南東方向に流れ、多摩丘陵と武蔵野台地の間を流れ下ります。この区域では、川は瀬と淵を繰り返し、左岸の武蔵野台地の河岸段丘を形成しています。この段丘は、かつての多摩川が造り出したもので、立川崖線や国分寺崖線などがその代表です。

農業と特産品

東京都羽村市から国立市、さらには多摩市の大栗川合流点まで、多摩川は武蔵野台地の低位面や多摩丘陵にぶつかりながら流れます。この地域は、特に川崎市多摩区と東京都稲城市が生産の中心である多摩川梨の産地として知られています。多摩川が運んだ礫層が地表に近いため、水はけが良く、梨の栽培に適しているのです。

下流域

多摩川は東京都大田区と神奈川県川崎市川崎区との境界で東京湾に注ぎます。河口の左岸には東京国際空港(羽田空港)が位置しており、下流部では六郷川とも呼ばれることがあります。特に、六郷橋付近から河口にかけては、六郷川と呼ばれることが一般的です。川崎区殿町の水位観測所が「海から20K」といった標識の原点となっており、河口からさらに下った浮島町公園付近で京浜港に注いでいます。

多摩川水系の分水界

北側の分水界

多摩川水系の北側の分水界は、秩父から奥多摩の山中にかけては埼玉県との県境を成し、武蔵野台地では武蔵野面の南縁に沿って走ります。源流から下流のうち上流寄り(東京都三鷹市付近)までは荒川と分水界を接し、下流のうち河口寄り(東京都世田谷区付近より下流)では目黒川や呑川と分水界を接します。

南側の分水界

一方、南側の分水界は関東山地から多摩丘陵を通り、中流以降の多摩川の支流は主に右岸に集中しています。これは、関東平野の周辺部が隆起し、中央部が沈み込んでいる地形的影響によるものです。南側の分水界は上流部では富士川や相模川、中流以降では境川や鶴見川の分水界と接しています。

崖線と湧水

湧水と支流の形成

多摩川中流域の崖線(多摩川では「ハケ」または「ママ」とも呼ばれます)下では、多くの場所で湧水が見られます。これらの湧水は、左岸の最大の支流である野川を形成し、東京都世田谷区玉川1丁目で多摩川本流に合流します。また、立川崖線下でも湧水が集まり、府中用水などの用水路を通じて流れています。

多摩川の水資源利用

取水と水質管理

多摩川は東京都や神奈川県の重要な水源として利用されています。東京都の水源のうち、多摩川水系は約2割を占めており、残りの8割は利根川水系および荒川水系から供給されています。しかし、1930年代までは調布浄水場付近で取水が行われていましたが、塩水の遡上が原因で水道水が塩辛くなる問題が発生しました。そのため、1934年から1936年にかけて丸子橋の上流部に調布取水堰を建設し、塩水対策が行われました。調布浄水場は1967年に閉鎖されましたが、取水堰は塩水対策として現在も機能しています。

砂利採取と水質への影響

かつては多摩川の砂利が多く採取されていました。明治から昭和にかけて、建築需要や鉄道用の道床資材として多摩川の砂利が利用されていましたが、砂利採取が進むと河床が低下し、水質に悪影響を及ぼすようになりました。最終的に、1936年には二子橋下流での砂利採掘が禁止されましたが、それでも違法採掘が続き、多摩川の環境問題は深刻化していきました。

釣りと行楽

多摩川での漁業と釣り

昭和中期までは、多摩川は漁業が盛んで、中流域では鮎の鵜飼、下流域ではシラウオ漁が行われていました。しかし、水質汚濁が進むにつれて漁業は一時途絶えました。その後、環境保護活動により水質が改善され、現在は多摩川漁業協同組合の収入源として娯楽としての釣りが行われています。釣りの他にもラフティングやカヌーなどのレジャーが人気で、地域の活性化に貢献しています。

エコミュージアムと観光

多摩川流域では、環境や歴史を学ぶ「エコミュージアムプラン」が進行中で、地域活動部門で国土交通省から表彰されました。多摩川沿いには、川の水を利用した公園や親水施設も整備され、家族連れや観光客に人気のスポットとなっています。

多摩川の歴史

地形と歴史的役割

多摩川は、青梅を扇頂とする広大な扇状地を形成し、武蔵野台地の基盤となりました。さらに数万年前の台地の隆起により、川の流れは現在の位置へと移動しました。この地域では旧石器時代からの遺跡が発見されており、古くから人々が定住していたことがうかがえます。

歌枕としての多摩川

多摩川は「調布の玉川」として古代の和歌にも詠まれ、万葉集や勅撰和歌集に数多く収録されています。また、多摩川は日蓮が入滅する際に渡った川としても有名で、日蓮の入滅図には多摩川が描かれることが多くあります。

伝承・宗教における多摩川

多摩川と宗教的な象徴

多摩川にまつわる民間伝承や宗教的な話も多くあります。特に、日蓮が多摩川を渡った伝説や、多摩川から引き上げられたとされる神体や仏像が祀られる神社が沿川に点在しています。これらの神社は、多摩川の歴史と文化の象徴として、地域の信仰の中心となっています。

新田義興の伝説

また、矢口の渡しで謀殺されたとされる新田義興の御霊伝説も広く知られています。このように、多摩川には歴史的な事件や人物にまつわる多くの伝承が残されています。

利水と治水の歴史

灌漑と農業の発展

戦国時代、徳川家康が多摩川下流の水稲生産を拡大するため、灌漑用水路の建設を進めました。二ヶ領用水や玉川上水といった水路は、江戸時代の多摩川流域の農業を支え、江戸の食料供給にも大きく貢献しました。

治水と洪水対策

多摩川は古来より氾濫を繰り返してきた「暴れ川」として知られています。江戸時代には度重なる洪水によって流路が変わることもあり、周辺の村々は常に洪水の脅威にさらされていました。これに対する治水対策として、堰や取水堰の建設が行われましたが、洪水時には逆に堤防を破壊するなど、新たな問題も生じました。

多摩川の鮎漁

江戸時代の鮎漁

多摩川は、清流を好む鮎が多く棲息する川として知られていました。江戸時代には鮎漁が盛んで、将軍家にも「御用鮎」として献上されました。鵜飼を利用した鮎漁の様子は浮世絵にも描かれており、当時の人々の生活と密接に結びついていました。

現代における鮎漁の復活

昭和期に水質悪化により一度は途絶えた鮎漁ですが、近年の環境改善に伴い再び鮎が多摩川に戻ってきました。昭島市や日野市、あきる野市では「江戸前鮎を復活させる地域協議会」が発足し、鮎の保護活動が進められています。

多摩川の環境問題と保護活動

水質汚染とその回復

高度経済成長期には、多摩川の水質は著しく悪化しました。特に1970年代には、多摩川の水質は飲用に適さなくなり、魚類の大量死など深刻な問題が発生しました。しかし、その後の下水道整備と排水規制により水質は改善し、1980年代にはサケの放流計画が始まりました。現在では、鮎をはじめとする魚類の遡上も見られ、自然環境が回復しつつあります。

生態系の保護と市民活動

現在、多摩川流域では生態系の保護活動が盛んに行われており、鮎やサケだけでなく、白鷺やコアジサシなどの鳥類も多摩川で採餌する姿が見られます。また、市民団体やNPOによる清掃活動や環境教育が積極的に行われ、地域住民が主体となった河川の保護活動が進められています。

流域の自治体

多摩川の流域には、山梨県、東京都、神奈川県の自治体が含まれます。流域の定義は広く、湧水や雨水が多摩川に流れ込む地域を指しています。以下に主な自治体を示します:

山梨県

東京都

神奈川県

Information

名称
多摩川
(たまがわ)

奥多摩・青梅

東京都