概要
東京ステーションギャラリーは、JR東日本が発足してから1周年を迎えた1988年の春に開設されました。開設の背景には、「東京駅を単なる通過点ではなく、香り高い文化の場として提供したい」という意図がありました。東京駅丸の内駅舎内に設置されたこの美術館は、その独自の文化的役割を果たし続けています。
活動の指針
東京ステーションギャラリーは、以下の3つの柱を掲げて活動しています。
- 近代美術の再検証 - 知られざる作家の発掘や、見過ごされてきた美術の紹介を中心とする。
- 鉄道・建築・デザイン - 建築家の辰野金吾によって設計された重要文化財の東京駅舎内にある美術館としての活動。
- 現代美術への誘い - 新しい時代と新しい丸の内にふさわしい現代美術の紹介。
このような指針に基づき、年間約5本の企画展が開催されるほか、建物に関する歴史展示や教育普及活動も実施されています。また、東京駅の歴史を保存し続ける煉瓦造りの壁を利用した展示室が特徴的で、開館から2006年の駅舎復原工事までの18年間に105本の展覧会が開催され、延べ約235万人が来館しました。
2006年の休館と再オープン
2006年に東京駅の復原工事が始まり、一時休館を余儀なくされましたが、その間も旧新橋停車場の鉄道歴史展示室などで館外活動を続けていました。そして、2012年10月、復原工事を終えた駅舎内において、6年半ぶりにリニューアルオープンしました。再開後も、東京ステーションギャラリーはその独自の魅力を保ち続け、多くの来館者を迎え入れています。
ミュージアムショップ「TRAINIART」
東京ステーションギャラリーの2階には、ミュージアムショップ「TRAINIART」(トレニアート) があり、煉瓦や丸の内駅舎をモチーフにしたオリジナルグッズが販売されています。美術館の訪問者は、ここで東京駅の歴史や文化を感じさせるアイテムを手に入れることができます。
建築
煉瓦の壁を活かした美術館
東京ステーションギャラリーの館内は、1914年に完成した東京駅の駅舎から保存されてきた煉瓦をそのまま使用しています。当初の計画では白い壁で展示室を作る予定でしたが、初代館長の木下東京駅長の提案により、煉瓦の壁がそのまま残されることになりました。この煉瓦の壁は、現在では美術館の象徴的な特徴となっています。
リニューアル後の展示室
リニューアル後の展示室は、3階から2階へと降りる順路になっており、3階は白い壁面、2階は煉瓦の壁で構成されています。また、展示のパーテーションや照明器具も階によって色が分けられ、展示物との調和が図られています。このようにして、歴史ある煉瓦の壁と現代的な美術展示が調和する空間が作り出されています。
階段の吹き抜けとシャンデリア
階段の吹き抜けには、開館当時に設置された照明やステンドグラスが移築され、現在もその美しいデザインが来館者を魅了しています。特に、シャンデリアには電球交換の際に便利なチェーンが取り付けられ、リモコンでチェーンを伸ばして作業ができるように工夫されています。
ドーム2階の八角形回廊
東京駅丸の内駅舎のドーム2階にある八角形の回廊部分には、東京駅の歴史を紹介する模型や写真資料が常設展示されています。再現された天井レリーフの原型も間近で見ることができ、歴史的な価値を感じさせる空間となっています。このレリーフは干支のうち八支を象っており、丸の内駅舎の完成当初に取り付けられていましたが、東京大空襲で焼失したため、古写真や文献を元に再現されたものです。
主な展覧会
東京ステーションギャラリーでは、多くの著名な展覧会が開催されてきました。以下はその一部です。
- 生誕120年 木村荘八展
- エミール・クラウスとベルギーの印象派
- 生誕100年!植田正治のつくりかた
- ジャン・フォートリエ展
- 泥象 鈴木治の世界
- ピカソと20世紀美術
- 没後30年 鴨居玲展 踊り候え
- 『月映』田中恭吉・藤森静雄・恩地孝四郎
- ジョルジョ・モランディ 終わりなき変奏
- 追悼特別展 高倉健
- 幻の画家 不染鉄展
- シャガール 三次元の世界
- 生誕100年 いわさきちひろ、絵描きです。
- 横山華山
- 吉村芳生 超絶技巧を超えて
- アルヴァ・アアルト もうひとつの自然
- メスキータ
- 岸田劉生展
- 辰野金吾と美術のはなし
- 坂田一男 捲土重来
- 神田日勝 大地への筆触
- もうひとつの江戸絵画 大津絵
- 河鍋暁斎の底力
- 福富太郎の眼
- 小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌
- ハリー・ポッターと魔法の歴史
- 佐伯祐三 自画像としての風景
評価
建築家の青木淳は、東京ステーションギャラリーについて次のように評価しています。「このギャラリーは、単純な復原ではなく、古いものと新しいものを重ね合わせることで、この空間がこれまで辿ってきた来歴をそのまま見せ、歴史の重みを感じさせるものです。まさに、時間を行き来するミュージアムらしい空間である」と述べています。