大森海苔のふるさと館は、東京都大田区平和の森公園内にある博物館です。この施設は、特定非営利活動法人海苔のふるさと会によって管理運営されています。
施設の概要
大森地域は、江戸時代中期から昭和時代中期まで、海苔の生産が盛んに行われていた地域です。この地域では、日本全国に先駆けて海苔の生産が伝統産業として続いてきましたが、1963年(昭和38年)に始まった東京湾の埋め立て計画により、その長い歴史に幕を閉じました。
大森海苔のふるさと館は、この地域の誇りであった海苔づくりの歴史と文化を次世代に伝えることを目的に設立されました。海苔づくりに適した海辺の自然環境や、それにまつわる歴史・文化を学ぶ場として、様々な展示や教育活動が行われています。特に、ふるさとの浜辺を活用した自然環境教育を進めており、海苔づくりの歴史を体験しながら学ぶことができる施設です。
大森の海苔養殖の沿革
江戸時代から昭和時代までの歴史
- 1733年(享保18年) - 『江戸砂子』に「品川大森」として、浅草で製造される海苔の産地として記載。
- 1746年(延享3年) - 大森村が江戸幕府に海苔業税を納め始める。
- 1861年(文久元年)〜1864年(文久4年) - 「海苔買仲間」が結成される。これが後の大森本場乾海苔問屋協同組合の前身。
- 1878年(明治11年) - 貴船小学校(現・大田区立大森第一小学校)が学校資金用の海苔漁場「学校場」を設立。
- 1886年(明治19年) - 「海苔買仲間」が「大森本場乾海苔問屋協同組合」となる。
- 1902年(明治35年) - 大森漁業組合が設立され、千葉への海苔の移植が始まる。
- 1939年(昭和14年) - 貴船神社に「漁場解散記念灯篭」が建立される。
- 1950年(昭和25年) - 大森漁業協同組合が結成される。
- 1962年(昭和37年) - 大森の海苔漁業が終焉を迎える。
- 1963年(昭和38年) - 東京湾の埋め立てが開始される。
- 1964年(昭和39年) - 諏訪神社境内に「海苔納畢の碑」が建てられる。
- 1965年(昭和40年) - 大森海苔漁業共同組合が解散する。
- 1967年(昭和42年) - 漁協跡地に「漁場記念碑」が建立される。
- 1973年(昭和48年) - 「大森漁業史」が刊行される。
- 1982年(昭和57年) - 「平和の森公園」が開園する。
- 1984年(昭和59年) - 大森第一小学校に郷土資料室が完成する。
- 2008年(平成20年) - 大森海苔のふるさと館が開館する。
重要有形民俗文化財
大森および周辺地域の海苔生産用具
大森海苔のふるさと館では、大森および周辺地域で使用されていた海苔生産用具が重要有形民俗文化財として指定されています。これらの用具は、養殖、採取、加工に使用されたもので、合計881点が登録されています。
この地域は、江戸時代中期以降、浅草海苔の発祥地として知られています。潮の干満が適度で、遠浅で波静かな海面、さらに栄養豊富な河口に近いという海苔養殖に最適な条件が揃っていました。海苔生産の技術は、海上での養殖技術と、採取した海苔を乾燥させる製造加工技術の2つに大別されます。
1993年(平成5年)に指定された資料には、養殖用具、採取用具、加工用具、海苔船および船用具、海苔ヒビ等製作用具、漁場慣行用具、仕事着、飲食・灯火用具などが含まれています。特に、海苔船および船用具は、一人乗りの海苔採りベカ舟や小型・大型船用具が網羅されています。さらに、1999年(平成11年)には、中型の海苔採りベカ舟と大型の動力付き海苔船が追加指定されました。
施設情報
展示室
大森海苔のふるさと館では、かつて海苔が盛んに作られていた頃の様子を再現した展示室が設けられています。ここでは、海苔の歴史や文化を紹介しながら、実際に海苔づくりを体験することもできます。また、海苔に関する情報を調べることもでき、訪れた人々がその魅力を深く理解できるよう工夫されています。
- 1階展示室 - 1955年(昭和30年)代に造船された、国の重要有形民俗文化財に指定されている最後の海苔船「伊藤丸」(全長13m)や、小型の海苔採り舟「ベカブネ」が展示されています。また、乾海苔作りの作業小屋「海苔付け場」も再現されています。
- 2階展示室 - 海苔の歴史や文化を紹介する展示があり、「海苔の歴史と科学」「海苔つくりの一年」、さらに大田区沿岸における海苔産業の歴史をドラマ化した「大田海苔劇場」などが楽しめます。また、企画展示コーナーも設けられています。
- 3階展望室 - 大森の浜辺や東京湾の風景を一望できる展望室があります。
利用情報
- 開館時間: 午前9時〜午後5時(6月〜8月は午前9時〜午後7時)
- 休館日: 第3月曜日(祝日の場合は翌日休館)および年末年始(12月29日〜1月3日)
- 入館料: 無料
- 駐車場: 大森ふるさとの浜辺公園駐車場(事前連絡が必要)
- 交通アクセス:
- JR京浜東北線 - 大森駅下車、京急バスに乗り換え
- 京急線 - 平和島駅下車徒歩約15分
- 東京モノレール - 流通センター駅下車徒歩約15分